曹操軍は明らかにこれまで趙神が見てきた他の軍の侵略と違っていた。城内に入った者は誰一人掠奪する者もおらず、見事に統率され、末端の兵士一人一人が与えられた自分の仕事を確実にこなしている風であった。趙神が城内に入った時、既に呂布軍はもぬけの殻であった。特に城内で揉めている処もなさそうだった事を考えると、どうやら紫音も彼らに見つかる事無く、無事に脱出したのであろう。

 町の中心部にある宮廷に前まで来たところで、趙神は足を止め、そのまま何やら整備を始め出した兵士達の横を通り過ぎ、そこを脱しようとした。声を掛けられたのは、東門に向かって歩き始めた趙神が、統率された軍内では、流れに逆らって一人出て行こうとする、今が一番目立っているなと感じた時であった。

 「おいお前、剣を背負ったお前、待たれよ。」

 声を掛けてきた男の姿を見て、趙神は、多くの事を計算し始めた。いきなり斬りつけるべきか?この男に兵を呼ばれたら、敵は鍛えられた万を超える兵士達になる。これは無事では帰れないな…と。その男は明らかに好戦的に見えたからである。投げつける様な話し方に、自分の力を誇示する様に、体の左半分から肩を出し、左手に持った剣は鞘に収められたままであったが、肩から頭の後ろに回して掲げていた。その剣の姿を見て、趙神の頭に描いた計算は全て吹き飛んで行った。


>>次項