「我らが兵の証である青い紋章が見当たらぬが、呂布軍の将兵ではあるまいな?」

 「呂布軍?…そうじゃないが、お前とは味方ではないみたいだ。」

 趙神はそう言って、背から剣を抜いた。不知火はまた夜の闇に妖しく光っていた。が、水滴が落ちる気配は見せていなかった。

 「ほう…お前の持っている剣はそれ一本か?」

 趙神は何かを悟った様にその男に尋ねた。左肩を剥き出しにした男は、真赤な鞘を抜くと、そこに柄から切っ先に至るまで、鮮やかな青に包まれた剣が顔を出した。

 「我が名は夏侯元譲。剣は、もちろんこの青紅の剣一本だ。」

 夏侯惇は上半身で唯一服に覆われた右肩を出しながら、目を趙神から離さずに答えた。この男は敵だ。彼の闘争本能がそう語りかけていた。しかし、逆に趙神は構えを崩し始めた。

 「どうやら、お前はその剣の本当の意味を知らぬようだ。」

 「本当の意味?この剣の?何の事だ?この剣は曹東郡より戴いた由緒正しき剣、己、愚弄するのか?」


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