夏侯惇の顔面は徐々に赤みを帯び始め、自分と自分の得物、ひいては自分の主を軽く見る目の前の青年に対して、沸きあがってくる殺意を明らかに感じていた。この頃には、周りの兵も自分達の将が一悶着起こしているのに気が付き、手に手に武器を持ち、こちらに近付いてきた。一人対何百人。この形を自覚しているのか、趙神の顔からはまだあの笑顔は消えていなかった。
「その剣は九獣の神器の一つ、豹の『青紅の剣』。しかし豹の剣は一対。二本を所持してこそ初めて神器となる。」
「なっ…この剣が完全ではないと…。」
夏侯惇は憤りを隠しきれなかったが、同時に心当たりのあるいくつかの思いに、過去の疑念に確信を持った。
「豹の神器を作ったのは、双子の兄弟。彼らは自分達の剣が最強になるように画策し、二本で一対の武器を作った。しかし同時に、悪事に使われぬように、それぞれ単独では完全な力を出せぬ様にした…これがその剣の真実だ。」