趙神の説明を聞きながら、夏侯惇は青い剣をもう一度眺め、心の中で問うた。
─お前は兄弟を欲していたのか?─
既に趙神は数えきれぬ程の兵士に囲まれ、彼らも夏侯惇の号令を待っていた。
「青紅の剣を単独で持つお前を斬っても何の得にもならぬ。悪いがこのまま俺を帰してはくれぬか?それがお前の兵達のためだ。」
趙神は不知火を背に直そうとしていた。青白く輝いていた剣がいつの間にか錆びた剣に戻っていた事に気が付き、夏侯惇はあの少年の話を思い出していた。錆びた剣を持つ青年。陽都の惨殺事件。そして死神…。目の前の青年に言い知れぬ興味を感じた。
「いや、そうはいかぬ。ここまで我らを侮辱し、この兵の数に怯む事無く、堂々としたその態度も気に入らん。聞けば徐州で起こった虐殺事件にも、光る剣を持つ男が目撃されたという。よもやお前ではあるまいな?」
趙神を囲む兵達はこの言葉にざわつき始め、罵倒する者、攻撃を促す者、様々な反応を見せた。