「…だとしたら、どうする?」
趙神は明らかに好戦的な彼らの態度と、殺意に満ち溢れた視線に、ついに脱出を諦め、もう一度不知火を抜き、腰を僅かに落とした。不知火はまた青く輝き始め、趙神は不気味に笑いながら、その切っ先を地面に付け、独特の戦闘体制に入った。
「我が精鋭達の天誅を受けよ!」
夏侯惇のその号令と共に、一斉に趙神を取り囲んだ兵達は、中心にいる趙神に向かって斬りかかっていった。趙神は切っ先を地面につけたまま、走り寄ってくる無数の殺意に怯む事もたじろぐ事もなく、真っ直ぐ正面にいる夏侯惇に向かって疾風の如く走っていった。
彼らの距離は凡そ十歩。その間に目の前にいた兵は趙神の風の様な動きを捉えることができずに、体当たりを受けたように弾き飛ばされ、趙神はあっという間に夏侯惇の目の前まで迫った。彼の走った後には、不知火の切っ先がつけた跡が、地面に真一文字の足跡を残した。
「ちっ。」
一瞬思いもよらない速さに怯んだ夏侯惇ではあったが、彼の闘争本能は地面から這い上がってくる不知火の姿をはっきりと捉え、何とか寸でのところで、それを払った。趙神は走り寄ってきた勢いそのままに夏侯惇の背後に回ると、また妖しく笑いながら口を開いた。