「俺の『一の太刀』をかわす漢に会ったのは久しぶりだ。夏侯元譲、楽しいよな。殺し合いのこの時こそ、俺達が生きている事を感じる事の出来る唯一の時だ。」
夏侯惇は青年に言い知れぬ不気味さを感じながら、何がこの青年をこうさせたのか?その興味も感じた。そして密かに彼のその言葉に大きく頷きたい気持ちもあった。
「どうやら俺の全力を持って当らねばならぬようだな。」
夏侯惇はそう言うと今度は自ら先手を打つべく、腰を深く落とし、青紅の剣を両手に持ち右肩の上に構え、その位置のまま切っ先を趙神に向けた。周りの兵達は先程の趙神の動きに警戒を強めたが、一歩も引かず受け止めた自分達の将の実力を感じると、再び趙神を中心に周りを囲み始めた。その時だった。趙神は何かを感じ、夏侯惇の背後から来る巨大な黒い物体に目を向けた。
「ちっ、爺さんか…余計な事を…。」
夏侯惇も、趙神のその視線に気が付き、ふと後ろを振り返った。兵達も何事か?とそこにいる皆の視線がそちらに注がれた。