「…他にあんな趣味の悪い矢を射る者はおらん。次に俺の闘いの邪魔をしたら、例え大恩のある、あんたであろうとも容赦なく斬るぞ。」

 趙神は怒りに震える姿で、目の前に腰を降ろす漢匠の胸に剣を充て、そう脅した。

 「何の事かのぅ。まぁお前が不覚を取られても困るし、わしらにとっては確かに好都合ではあったが…。」

 漢匠はとぼけた答えを半笑いで言い、焼いたばかりの蝗を頬張った。趙神はさらに問い詰めようとしたが、自分のうなじに冷たい殺気を感じ、思い留まった。

 「何度もお前から背後を取る者もそうおらぬじゃろうて…。」

 漢匠はそう言いながらさらに高笑いをし、趙神の後ろで、彼の首筋に逆手に持った短刀を突きつける紫音を見上げた。

 「何度も命を救ってもらった漢匠様に、剣を突き付けるとは、相変わらず義を知らぬ人間だね。」

 紫音はわざと趙神の耳元に口を近付けると、そう呟いた。仕方なく趙神も剣を収め、そこに腰を降ろし、漢匠の焼いた蝗を食べ始めた。

 「これからどうする?呂布はどこに逃げた?」

 「それが面白い方向に行ったみたいじゃ。」

 「勿体ぶるな。どこに行こうと奴を追いかけるのは決まって…。」


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