趙神の言葉が終わらないうちに、漢匠は待ってましたとばかりにその場所を口にした。
「徐州。」
趙神はその言葉を聞くと、さすがに蝗を食べる手を止めた。
「徐州か…。出来る事ならもう彼らには会いたくないな…。」
思いに更ける様にそう呟いた趙神に何かを感じたのか、先程から相変わらず冷たい表情のままこのやり取りを見ていた紫音が口を開いた。
「あの少年に自分が過ちを犯した少年時代を重ね、あの女子に自分が命を奪った…」
紫音の首に驚くべき速さで短刀を突き付けたのは、今度は趙神の方であった。短刀はもちろん彼女が腰に付けていた物。瞬時に彼女の腰から短刀を抜き取り、彼女に迫るという離れ業にさすがの紫音も反応できなかった。しかしそれでも彼女も臆する事はなく、恐怖を見せることなどなかった。
「…違う…。滅多な事を口にするな。例えお前でも許さんぞ。」
「あら?図星だったみたいね。こんな事に狼狽するなんて、あんたらしいわ。」