「公達、劉左将軍、しかし奴はもう三ヶ月も城から出て来ぬ。どうやってこの状況を打破するのか、良い策でもあると言うか?」

曹操のこの問いに答えるような策を二人は持ち合わせていなかった。呂布に本拠を追われた劉備は一旦、呂布に従う格好を見せたが、逆にすぐに兵を集め、また反旗を返した。しかし呂布軍の猛攻の前に急増の兵では相手にならず、命からがら曹操の元へ逃げ延びて来ていた。

「虎を狩る槍ならば二本程持ち合わせおりますが。」

彼らのやり取りを見かねたのか、最後尾から気だるそうな声が広間に響き渡った。声の持ち主は大きく欠伸をしながらそう言った。中にはそんな彼に罵声を浴びせる者までいた。男はこの場に似合わない汚らしい格好に身を包み、髪も髯も無造作に伸ばされていたため、今起きたばかりかと勘違いされる様な外見であった。明らかに疎んじている周りの人間とは対照的に、曹操はその声を聞いて、急に迷いがなくなったかのような笑顔に変わり、身を乗り出して、彼に尋ねた。

「良い、良い。奉考よ、続けよ。お前の持つ二本の槍とは一体どんな物だ。」


>>次項