「沂水と泗水でございます。」
「沂水と泗水?河がお前の槍とは?」
汚い男はまた気だるそうに立ち上がると、ゆっくりと曹操の座る上座を目指して歩きながら話し始めた。男の名は郭嘉。神の如き権謀で名だたる策士を押しのけ、曹操にこの遠征の参謀を任された若者であったが、ここまで大した働きを見せることもなく、ただ付いて来ているだけであると、皆に陰口を叩かれていた。その男がこの遠征で初めて見せる自分の頭の中に、曹操ならずとも皆が注目し始めていた。
「昨夜占いましたところ、明日あたりから長い雨が続きましょう。下ヒは、北は沂水、東は泗水に囲まれています。もしこの二つの河の水を城内へと入れる事ができましたら、敵は城の高台に避難するしかなく、我々は容易に城内へと侵入することが出来るでしょうな。」
言い終える頃には、郭嘉は既に曹操の目の前まで来ていた。郭嘉の言葉を聞いた曹操は彼の体から発せられる、異臭など忘れ、大きな声をあげて笑い始めた。