現実と妄想とのあまりもの違いに、一同は面を喰らった。どんな大男かと思えば、自分達よりも体の小さい青年が現れたのだから、その気持ちも頷ける。それとは別に、自分達が舐められている事に、腹を立てる者も少なくなかった。

「手前ぇ、ここがどこの軍の兵舎か知ってて乗り込んできやがったのか!」

敏感に反応したのは、居並ぶ諸将の中で最も背が低く、好戦的な匂いを漂わせた人物であった。彼の名は楽進文謙。自他共に認める曹操軍の切り込み隊長である。楽進は腰にある得物を抜くこともなく、そのまま独特な小股で入り口近くの優男に向かって歩き始めた。足を真っ直ぐ前に出すのではなく、片方ずつ斜めに足を出す彼の歩き方は見方によっては、滑稽にも映るが、背が低い事に劣等感を感じる彼の精一杯の虚栄心が生んだ歩き方だった。

「待たれよ、文謙殿。」

自分を呼ぶ声に楽進は「あ〜?」と振り返った。楽進の前進を止めたのは、彼とは対照的に、ここに居並ぶ諸将の中で、一位二位を争う大きな赤ら顔の男であった。


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