「その男にはあまり関わらない方が良い。敵ではないと言っていますし、話だけでも聞いてあげてはいかがでしょうか?」

関羽は曹操に向かって、そう懇願した。曹操は呂布に追われて自分を頼ってきた劉備を心から信じてはいなかったが、この関羽には興味があった。もとより優秀な人材をその身分に問わず重用する事が自分の人事の美学であったが、この美しい髯の男が戦場で、力強く、かつ華麗に戦う姿に魅せられ、是非とも幕僚に欲しいと思っていた。劉備を受け入れたのも、左将軍に上奏したのも、全て関羽を我が軍に…という作戦の延長線であった。

「…うむ。関羽の言う通り、もしや面白い話をするやも知れぬ。楽進よ、下がって彼を通すが良かろう。」

劉備や関羽の言葉を重用する主に、感情の起伏の激しい楽進は到底納得いかなかったが、逆らうわけもいかず、舌打ちをして関羽に睨みを利かせながら、元の席に戻った。関羽の方はと言えば、そんな楽進に目もくれず、ただ入り口に立つ青年の姿を微動だにせず凝視していた。


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