「それならば、心配ない。俺も向かう所敵なしだ。」
趙神の不敵な笑いはさらに妖しさを増し、曹操はこれだけの殺気に囲まれながらも、尚強気に豪語する青年を喜ぶように笑った。
「では聞こう。ここにこうしてたった一人で乗り込んで来たみたいに、下ヒにたった一人で乗り込めば良かろう。なぜわしらに協力を求めるのだ?」
「協力?俺はそんな事を頼みに来たなどとは、一言も言ってないが。お前の言う通り、俺は下ヒに乗り込む。しかし、邪魔が入ってせっかくの好機を失うのは迷惑だ。そこで、俺の為に一日を空けてもらいたいとお願いに来たわけだが?」
普通、曹操の威厳に包まれた目前に出ると、誰しも腰を曲げ、頭を垂れて、座を低くするもの。いかしこの無礼な青年は、曹操に臆する事無く仁王立ちし、それどころか曹操を『お前』呼ばわり有様。さすがに諸将から怒号が飛び交い、中には既に武器を手に臨戦態勢に入っている者もいる程であった。趙神はそんな殺気の中にあっても余裕の笑みを崩す事無く、ただ曹操を見て微笑んでいるだけだった。「静かにせよ!」という、曹操の一言で辺りはとりあえず平静を装ったが、満ち溢れる殺気に変化はなかった。