「奴の力を侮るなよ。戦は力だけじゃないぞ。知恵によって力以上のものを…」

いい加減面倒に思えたのか、漢匠の忠告を立ち切るかの様に、趙神はむくっと座り直すと、話を摩り替えた。

「そういやぁ、曹操軍の幕僚で、知った顔を何人か見たぜ。お前ら…一体何がしたいんだ。全て『あいつ』の指示か?」

また妖しい笑みを浮かべながら、趙神は漢匠へ詰め寄った。漢匠はこの質問が来る事を予知していたかの様に、すぐに立ち上がると、

「それはご本人から直接聞くが良かろう。」

そう言って片膝を立てた状態で、頭を下げ始めた。趙神の笑みはすぐに消え、漢匠の後ろから来る二つの影を激しい剣幕で睨んだ。

「お久しぶりですね。お元気にされていた模様。漢匠や紫音の話では、随分人間らしさを手に入れたとか?素晴らしい事ですね。」

暗闇の中から出てきた男女のうち、紫音の前を歩く立派な青年が丁寧な話し方で、話し始めた。端正な顔立ちに真っ黒なマントの様なものを背負い、どこか人を安心させる雰囲気を身に纏った青年であった。


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