昨夜から降り始めた雨は、強風を伴い、その威力をさらに増していた。低気圧が渦巻くこの様な天気の日には、必ず自然の力による犠牲者が出たので、人々はこの様な日を『死人の手招き』と呼んだ。

先日から静まり返った敵の猛攻を不審に感じていた下ヒ城内では、『死人の手招き』など忘れ、長い会議が続いていた。参謀長の陳宮は、曹操軍が何やら北と西の川辺に兵を集め、何かを企んでいるとの情報を得ていたため、必死に守りを固めて警戒すべしと訴えていた。しかし、先日からの連敗と敗走の連続で陳宮に対する呂布の信頼は地に落ちていた。陳宮の方もいざと言う時は呂布を騙し、自ら頭首となってもう一度戦局を立て直そうと密かに数人と企てていた。

「公台、もう良い。お前の言う通りに兵を動かし、このざまだ。最初から己の力だけを信じ、打って出るべきであった。敵の数千や数万…俺の相棒の腹も満たせぬわ。」

呂布はそう言って尋常ではない太さの戟を手にして、惚れ惚れと眺め始めた。戟からは彼の頭から垂れ下がっている白い羽の飾り物と同じ物が何本も垂れ下がり、刃の部分の輝きをさらに豪華に彩っているように見えた。

陳宮はこの時、決意した。「無念だが…計画を実行しよう」と。陳宮は頭を下げるとその場を退こうとした。しかし、それを止めたのはまたしても呂布の声であった。


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