「高順…お前は残るだろうと思っていたよ。」

呂布はそう言って苦笑いした。ただ一人そこに残り、呂布と運命を共にする覚悟をした人物は、彼と同じくらいの歳であったが、少し老けて見えた。それは彼の顔に残された大小の無数の傷のせいなのだろう。耳などは左右とも既に原型を留めず、槍を持つ右手も五指のうち二つがなかった。敵味方に限らず、人は彼を『陥陣営』と呼び、戦場においては常に恐れられた。また口数が驚くほど少なかったので、彼は誰にも馴染まなかった。

「私は、戦場において敵に命を媚びる位なら、自らこの安い命を絶ちましょう。」

「ふん。文遠がここにいたなら、貴様と同じ言葉を口にしただろうな。」

呂布は自ら張遼を城の外に配置したことを最も悔やんでいた。死を恐れない彼の戦い方から、少数の遊撃軍として、敵の後方を霍乱させようと企んだ。結果、少ない戦力を分断させたに過ぎず、恐らく張遼も今頃は敵の手に掛かったであろう…呂布はそう考え、さらに後悔した。

そんな時、『死人の手招き』が大きな木片を飛ばし、宮殿の入り口が大きく放たれた。吹き込んでくる強烈な烈風は、呂布と高順の目を細めさせたが、風の威力以上に強烈な何かを感じ、二人は同時に身構えた。開け放たれた扉は開いたり閉じたり…風の力で不思議に動いていたが、その向こうに一人の漢が仁王立ちしていた。その姿は雄大で、まるで彼がその烈風を起こしているかの様でもあった。


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