「ちっ」っと舌打ちすると趙神は今までにない動きを見せた。まずは機を見計らい、高順の牽制の突きを屈んで交わした。「屈んで交わした後は、必ず強い突きを突き下ろして来る」趙神はこう読んでいた。案の定、屈む趙神に向かって突き下ろされた。趙神が今まで以上に妖しく微笑んだのを、乱戦の最中、確実に高順は見た。そしてこの突きが読まれていた事をようやく理解した。強く突き下ろした槍は地面へと突き刺さり、引き戻すのに微妙な時間の隙が生まれた。その時趙神は空中にいた。先に高順の槍の先に着地させた右足に力を込めると、次は思い切って左足を槍の中心部分に勢い良く落とした。趙神の全体重を支える力はその槍にはなく、槍は真っ二つに折れ、ついに高順は得物を失くした。
「己…不覚…」
高順は両足の膝を地につけ、目を瞑った。趙神は躊躇う事もなく、不知火を冗談の位置から斜めに振り下ろした。瞬間に高順の袈裟から斜めに不知火は喰らいつき、高順の残された体はそのままピクリともしなくなった。
呂布はこの戦いを一言も発する事無く、ただ見ていた。そして趙神というこの青年が自分が命を賭けて戦うに相応しい相手だと、そう確信した。