「呂将軍、大変です。曹操軍が…」
走り寄ってきた兵士は、その場の状況を見て目をしかめた。あの陥陣営様が討たれ、呂布がたった一人で、目の前に優男に戟を向けているとは…。
「敵がどうしたのだ?」
呂布は趙神から目を離さないまま、黙り込んでいた兵士に問うた。
「はっ。曹操軍が北の沂水、東の泗水を咳留め、この下ヒに向かって密かに小さな水路を作っていた模様。先程、彼らがこちらへの水路を開放し、大量の雨水を含んだ水がこちらに向かっております。もはや下ヒ城冠水は時間の問題かと。」
呂布はしばらく趙神の顔を睨んだままであったが、左手を広げて趙神に待てという合図を送ると、兵士の方を振り返り、離し始めた。
「あい分かった。そなたは全兵士に告げよ。皆、命を粗末にせず、鎧を脱ぎ、武器を捨てて曹軍に降伏せよと。あの曹操の事だ。必ずや引き受けてくれるであろう。」
兵士は呂布の顔を見上げ、涙を隠す事無く呂布自身の進退について確認した。
「俺の事を心配してくれるのか?ふっ、俺も自分の兵に身を案じられる程、落ちたか。」
呂布は彼に答える事無く、苦笑いを浮かべながら、再び趙神の方を振り返った。