「皆、心配を掛け、苦労を掛けたが、これが最後の戦になるであろう。生きるために俺は一人でこれから戦いを挑む。」

 それまで横たわっていた負傷兵や、やつれた者達もその言葉に起き上がり、耳を傾けた。

 「しかし…その様な無茶をされては…」

 心配する一人の兵が漢に向かい話しかけたが、語尾の言葉に詰まったのは、もう彼個人の力が起こす奇跡に賭けるしかない、という本心からであった。

 「案ずるな。例えこの身が朽ち果てようとも、共に戦ったお前達の命と、死んでいった仲間の霊には報いるつもりだ。」

 声も出せず、ただすすり泣く音や、自分も一緒に、という声も聞かれる中、漢は言葉を続けた。

 「この張文遠、犬死だけはせぬ。見れば、我らを囲む軍の中に懐かしい名前の旗を見つけた。もし俺の知っている男であれば、例え俺が敗れようとも、お前達の命だけは助けてくれよう。」

 漢はそう言って、奥に立て掛けられた自分の得物を手にした。それは妙に短い槍であったが、先には三つの刃が『山』の字に突出し、良く見ればそれは槍の両端に付いていた。


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