揚州刺史・文欽の一子に、文鴦という子があった。
 文鴦は、生れ落ちたその日から、その境涯は過酷と言わねばならなかった。
 母親の胎内から取り出されたとき、この乳児の五体は、満身に、針金のような剛毛が、びっしりと生えていた。首はほとんどなく、肩の間に形の悪い頭がくっついている奇妙さであった。
 相貌も醜く、二つの小さな目が、顔の両端にぽつぽつと付着していた。鼻は巨大で、おおきな鼻孔が常にこちらを向いている。
 腫れ上がったように太い唇は妙に赤く、なまめかしかった。
 我が子を抱き上げてみて、そのあまりの奇怪な姿に、かれの母は昏倒し、ついにそのまま息をひきとる悲惨さであった。
 父である文欽もまた、
「世にこれほど醜怪な赤子がいようか──」
 と、呻きを洩らしたものであった。


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