と──。
人の気配を感じた。
振り向いてみれば、そこに、女人がふたり──。
ひとりは、まだ若い、十六、七になるか、美しい娘である。
もうひとりは、その娘に付き従う下女であろうか、齢は四十ほどに見える年増女であった。
その両名は、文鴦の姿を見るや、歩度を早め、こちらへ近づいてきた。
思わず、文鴦は飛びのくようにその場を離れようとしたが、
「文鴦さま!文鴦さまでございましょう?!」
と、可憐な声音が、若い娘の方から発せられるのを聞き、じーんと金縛りにあったかのように、その五体がこわばった。
このように見目麗しい娘から、おのれの名を口にされることは、はじめてのことであった。
「文鴦さま!わたくしの頼みを聞いていただきとう存じます!」
娘は、文鴦の矮躯の前でひざまずいて、懸命に言うのだった。
逆に、年増女の方は、その娘を文鴦に近づけまいとするように、彼女の側にぴったりとくっついて、こちらへ不快の視線を投げつけてくる。
「……た、……頼みとは、なにか?」
上ずった声を張り上げて、文鴦は訊いた。女人と、しかも、これほど美しい娘と口をきいたことなどないかれは、すでに満身が汗でぐっしょりと濡れていた。