深更に及び──。
寿春城の北隅にある簡素な邸宅──文欽が、おのれを頼って落ち延びてきた哀れな令嬢のために与えた、その屋敷の一室において、あやしげな営みがはじまっていた。
子供ほどの背丈しかない短躯、その体から針金に似た剛毛がびっしりと密生した男が、寝台に仰臥しているが、その双腕両脚は幾条もの組紐で、きつく縛られていた。
顔面の両端に、ぽつぽつとくっついた小さな目は、黒染めの絹の帯によって、隠されている。
上向いた鼻孔、太く分厚い唇、共に人間のものとは思えぬほどに、巨大で、不気味であった。
文鴦は、華蓉の美貌、そしてその誘いに抗するには、あまりにも性欲が強すぎた。女色を知らず、童貞であったことも、文鴦の衝動を助長せしめた。
目を引き剥き、肩を揺らして激しく呼吸する文鴦が、おのれの屋敷に現れたとき、華蓉は、彼の目の前に紅白の薄絹二重のみを着て、やさしい微笑をもって出迎えたのであった。
屋敷全体は、一灯もなく、青い月光が差し込むだけであったが、その闇の多さが、かえって妖艶と淫靡をおもわせ、文鴦は脳内がくらむのおぼえた。
かれが、おとなしく、子猫のような従順さで、寝台に縛り付けられ、目隠しされたのは、当然と言えた。
これから始まる、味わったことのない秘め事を前に、暴発しそうな欲望と、はじめて知る女への興味と、そして、ひそやかな不安と──あらゆる感情がない交ぜになった文鴦は、狂乱の一歩手前であったろう。
「文鴦さま──」
耳元に、華蓉の細い吐息がとどく。
「わたくしを、愛しんでくださいますか?」
「う、うむ!……このおれでよいのなら、生涯守り抜くぞ!」
「ならば、必ずや、わたくしの願いを、お聞き遂げくださいますね?」
「…………」
「司馬師を討ち果たす、兵を興してくださいますね?」
「…………」
文鴦は、わずかに残った意思をふりしぼり、彼女の願いがいかに困難であるか説こうとしたが、言葉が出ない。かつてない興奮が、指の先まで充満して、自由が利かぬ。