文欽は、息子の豹変ぶりに、困惑の色を隠そうとはしなかった。
「やはり挙兵すべきである、というのだな?」
「尹大目は信ずるに足らぬとは言え、かの者が知らせて参った司馬師重篤の真偽は、判然と致し申した!それがしの放った間諜の調べも、また同一にござる!」
 双眼を真っ赤に充血させて訴える息子を、不審なまなざしで見つめながら、文欽は、
「されど、司馬師卒去ののちに、事を起こしたとしても、遅きに失さずとは、その方の申し分であったろう」
 そう質した。
「父上!」
 文鴦は、我の十倍はあろう父の巨躯を見上げながら、しかし、その父を圧する威厳をもって、
「義挙の成否は、天のみぞ知り申す!司馬師の死を待ったとて、絶対とは申せませぬぞ!また、それがし、先般には思い至らなかった必勝の策が、今はこの肚裡にあり申す!必ずや、洛陽を我らの手中に収めてご覧に入れまする!」
 昂然と言い放ったのであった。


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