これだけの戦果を上げながら、麾下の将卒は、文鴦に心服するということはなかった。
 この時代、人物たる条件として、容貌の美醜が問われている。いかに文鴦が抜群の武功を立てても、その醜さゆえに、軽視されることはあっても、尊崇されるということはなかったのである。
 それでも、文鴦は戦い続けた。
 度重なる勝利に酔うこともなく、部下の冷視を憎いとも思わず──。
 文鴦の心中にあるのは、ただひとつである。
(──司馬師を都から引きずり出し、必ず討ち取ってみせる!そして、華蓉を、あの美しい娘を、ふたたび我が手に抱いてくれるぞ!)
 その煩悩の一念のみが、かれの内から、尽きぬ気力を湧き立たせているのだった。


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