司馬師は、諸将を汝陽の本陣に集めると、まずその戦法をかれらに問うた。
 すると、光禄勲・テイ褒という者が進み出て、
「カン丘倹、文欽両将の武勇絶倫の程は、天下に知れ渡っておりまする。これは警戒に警戒を重ねて、なお危ぶまねばならぬと心得まする。また、淮南の士卒は、古来より強悍をもって鳴り、これと真正面からぶつかるは、はなはだ危険でありましょう!……まずは、長期の陣を築き、敵の士気が低迷するを待つが得策と存ずる」
「いや!それは違い申す!」
 大音声に言い放ったのは、監軍の王基であった。
「確かにカン丘倹、文欽は侮り難い勇猛を備えておりまするが、しかし、その率いる兵らの士気は、決して高いとは申せませぬ!此度の反逆は、カン丘倹らの勝手の思惑によって起きたものにござる!これに従う兵らは、致し方なく服しておるまでにござろう!いたずらに時を置くは、下であると申せましょう!」
 司馬師は、しばらく瞑目して黙していたが、不意に、
「よし!此度は王基の策を採るぞ!」
 と、勇躍して言った。
 なおも司馬師は、王基にさらなる戦略の開陳をもとめた。
「一も二もなく、南頓を先取なさいますよう──南頓を抑えるならば、淮南勢ののど元に、槍の穂先を突きつけたも同然といえる優位を、我が方は得られまする!」
 これを聞くに及び、司馬師は莞爾として、
「王基の述べるところは、わしの思案と合致するぞ!」
 とよろこび、かれに南頓掌握の任務を与えた。



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