一方で──。
 カン丘倹、文欽らも、この討伐軍の動きに無関心ではなかった。
 かれらは、項城にまで駒を進め、迫り来る敵勢に対し、電光の速撃を期して、潮合を計っていた。
 本営にて、カン丘倹にさらに進言したのは、やはり文鴦であった。
「それがしに五千騎をお与えくだされ!矢の鋭さで南頓を攻め落として見せましょうぞ!南頓を得れば、もはや我が軍の勝利は間違いござらぬ!」
 カン丘倹もまた、南頓の占める戦略上の重要性は、把握していた。すぐにも、この文鴦を遣わせたい──と、思うところであったが、内心、それはおもしろくなかった。
 洛陽に対し叛旗をひるがえしてから、手柄という手柄は、この目の前の、醜い小男ばかりが立て続けている。
 たしかに、現段階までの快進撃は、文鴦の将才によるところは大きいが、カン丘倹は、そのことを素直に認めたくはない。
(──文欽は信頼しておる。その文欽の子なればこそ、重く用いてやっておるのだ!……でなければ、かような化け物のごとき男、側に寄せ付けとうもない!)
 その悪感情は、カン丘倹の心理から、ついに払拭されずにいるのであった。
(──化け物が、調子づいておるわ!)
 胸中で吐き棄て、文鴦には、思案顔のままに、何の返答も与えなかった。
 もしここに、文欽がいたならば、息子ともども言葉を重ねて、さらに南頓攻略の指令を仰いだかもしれぬ。
 文欽は、運悪く寿春へ戻り、本拠の防備を揺るぎないものとすべく、諸隊の指揮を執っているのだった。
「父上!そのお役目は、なにとぞそれがしに!」
 そう言って進み出たのは、カン丘倹の一子・甸であった。
「南頓城ごとき、それがしが参って一挙に抜きまする!」
「うむ!その言や良し!」
 カン丘倹は、甸に五千騎を与え、すぐに南頓に向かわせた。


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