同じとき──。
 やはり、文鴦もまた、楽嘉城に着目していた。
 優れた武将の思案するところは、得てして合致するものである。
 文鴦は、しかし、そのことをすぐにカン丘倹へ言上することをしなかった。献言したとて、ふたたび退けられれば、失態を重ねるのみである。
 楽嘉城先取のことは、まず、父・文欽に告げ、さらに父から都督・カン丘倹へ進言してくれるよう頼んだ。
「心得た!」
 文欽は快諾した。父は、息子の頭脳に全幅の信頼をおいているのであった。
 たちまち──。
 カン丘倹から五千騎を与えられた文父子は、昼夜を分かたず疾風の速さで楽嘉城に迫った。
 しかし、わずか一日の差で、標的の城は、敵将・トウ艾の占拠するところとなっていた。
 北東にある丘陵にのぼり、高みから楽嘉城を望んだ父子は、トウ艾という武将が成した整然の布陣を目撃し、息をのまざるをえなかった。
「城内はおろか、城外にも、なんの間隙も見あたらぬ見事な備えである……。数は、一万七千あまりもいようか……。これは、手出しできぬぞ──」
 呻きを洩らす文欽を横に、敵勢に対し、火のように燃えるまなざしを向けていた文鴦であったが、しばらくの沈黙ののち、
「いましばらく、このまま様子を窺いましょう──。あるいは、司馬師の中軍がこの地に参るやもしれませぬ」
「司馬師が──?!」
 文欽は愕然となって、
「司馬師が現れては、ますます勝ち目がないのではないか?」
「いいや、違い申す!」


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