「間違いなものか!この文鴦と華蓉は、強く結ばれておる!我らは夫と妻であることに、誓って偽りはない!」
絶叫する文鴦に、諸葛誕は、しばらく疑惑のまなざしを向けていたが、ゆっくりとした語調で、次のように述べた。
「文鴦殿、聞かれい──。夏侯玄の娘である華蓉は、幼いときより、すでに親同士が決めた許婚があった。中書令・李豊の子で、李英といい、年は華蓉より五つばかり上である。この李英が十九、華蓉が十四のとき、ふたりは晴れて婚姻し、夫婦となっておる。子こそ設けてはおらなんだが、この二人の仲はむつまじく、また、両人ともに愛する心は豊かであった。夏侯玄も李豊も、先年、謀叛の罪により死を賜っており、これによって李英もまた死罪と相成った──。華蓉の行方は知れず、貴公の申される通り、淮南へ逃れておってもふしぎではないが、たとえ死に別れたとは申せ、亡き夫を裏切るような姫ではないことは、この諸葛誕はよく存じておる」
聞くうちに、みるみる文鴦の表情は変貌していった。
顔の両端にくっついていた双眼は、真っ赤に充血したままギョロギョロとせわしく動き、鼻孔は猪よりもさらにふくらんで、分厚い唇はなお赤々と色づき、不気味さは尋常でない。
小さな五体は、小刻みにふるえて、悪い病にでも憑かれたかのようであった。
(──ばかな!左様なことが、あるものか!)
悲痛な叫びを胸中で噴き上げながら、文鴦は、何度も何度も大きくかぶりを振った。
「そのこと、嘘偽りでは、決してないと申されるか──?!」
そして、諸葛誕に対し、そのように念を押さざるをえなかった。
諸葛誕は、憐憫の色をまなざしに乗せながら、
「両名の祝言にて、その媒人の役目は、それがしが務めておる」
その宣告を告げた。
聞くに及び、文鴦は面を伏せ、しばらく身の震えるに任せていたが、突如、わっと野獣の咆哮を残しておいて、影も残さず駆け去ったのであった。
駆けながら、文鴦は、
(──おれは、たしかにあの夜、女を抱いた!抱いたのだ!それだけは、それだけは相違ない事実だ!)
その絶叫を、心中で繰り返していた。