第一章


「父が!?」

孫策は自分の耳がおかしくなったのかと、一瞬本気で信じた。

「は…はい…っ!!
殿は…俔山の一本道で敵の伏兵の矢に…」

孫堅の悲報を伝えにきた兵も、もはやその死を口にすることはできなかった。






長江を遡る大船団。

累々と連なる軍船は、一番先に進む船が霞んで見えるほどだ。

それらを統括する人物が、今ここにいる。

孫堅、字を文台。

若い頃、海賊退治で勇名を馳せたこの男は、江東の虎の異名を持ち、諸侯の中でも最強の軍を率いる、とまでいわれた武将だった。

そんな男を父にもつ、孫策。

正直、父の背は大きすぎた。
こんな偉大な父の背を、俺は越えられるのか。

自信なんかない。

でも、死に物狂いで追わなければ、いつまで経っても距離は縮まらない気がした。


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