第二章
江北の陣屋から江を越え戦闘地帯を横切って、敗退した味方が拠点としている魚復に到 達して、陛下に竹簡を渡す…。かなりの老練 の密偵を以てしても、楽な任務ではないだろう。仮に、私が自ら思い立って起こした行動であれば、何処かで頓挫していたに違いない。
しかし私には将軍から授けられた指示が在り、そしてそれは常に的確で、私は導かれるようにして魚復に到達する事ができた。
城内の様子も、将軍の予想された通りであった。殺伐として張り詰めた空気とは裏腹に、警護は目を疑いたくなる程に脆弱に見える。
その状況は、陸とか云う敵将が兵を率いて押し寄せたなら、万に一つの勝ち目も無いのではないか?そんな不安を抱かせるが、同時に、将軍のご指示には万に一つの間違いもないのだと、確信をさせてくれた。
もはや、従う事に一片の躊躇いも無かった。
私は道中で聞いた、陛下が仮の宮城と定め たと思しき処まで堂々と歩み寄ると、二人の門番に相対して述べた。
「お役目ご苦労さまでございます。私は隣の県の住民でございますが、皇帝陛下がこちらにお出でと伺いまして、家に代々伝わる剣を献上申し上げたくやって参りました。何卒、お取り次ぎをお願い致します」
「其方のような子供がか?」
向かって右側の門番が、怪訝そうな表情を浮 かべつつ声を上げる。
「はい。実は、剣を献じたいと申したのは父なのですが、その父は右足を怪我していて動くことが出来ないのです。それ故に私が父に代わってまかり越しました次第です」
二人の門番は顔を見合わせていたが、暫くすると左側の門番が
「うむ、暫し待たれよ」
と云って奥に姿を消した。
・・・・・・。
・・・・・・。
半時ほど経って、ようやく戻って来た門番は切れていた息を整えると、私に告げる
「陛下が御会いになるそうだ。案内致す故、付いて参られよ」
私は会釈をすると、遅れないように門番に付いて奥に進んだ。