通されたのは、通常の謁見の間のような雰囲気ではなく、只の客間のような処であった。 それが理由があってのことなのか、それとも仮の宮城故のそこが限界なのか…などと云うつまらない考えが浮かんだが、直ぐにかき消 した。何処であろうと、陛下に竹簡をお渡しするのが第一義なのだ。
 やがて陛下がお出ましになった。髪は白髪で、頬は痩けて、窶れ切った様子ではあるが、豪奢な装いと鋭い眼光が、一国の主の威厳を感じさせる。
 陛下は、私の正面に位置する座の処までゆったりと進むと、そこに腰を掛けた。
 「陛下の御前であるぞ!頭が高い!」
突っ立ったままであった私の姿に、業を煮や したのであろう。陛下の近習が怒声に近い声でもって、私を叱責する。
 私は慌てて跪こうとした。…が、他ならぬ陛下ご自身がそれを制した。
 「よいよい…、遥々と品物を献じに来てくれたのだ。それに、此処は公式の場ではない」
 近習はそれを聞くと、畏まって身を引いた。
 「さて、童よ。剣を献じに来てくれたそうだな?」
 「はい。こちらにございます」
陛下の問い掛けに、私は錦の袋に収めたままの剣を両手で捧げ持った。
 「うむ、見せて頂こう」
 陛下がそう発すると、近習が近付いて来て私の手から袋を取り、陛下の元へ運んで行く。
 手元へと届いた錦の袋を左手で受取った陛下は、右手で袋の口を結んでいる紐をはずし て袋から剣を取り出すと、ひと眺めして柄を握り鞘から抜き放った。
 「ほぉ…、中々の逸品であるのぅ」
 視線を刀身に落としたままで、陛下が呟く。
 それから座から立ち上がって、二度、三度と剣を振るって感触を確かめるかのような風であった陛下は、剣を収めて再び座に腰を下 ろすと、真直ぐに私を見据えてきた。
 「童よ、見事な剣の礼に朕の武勇伝を聞かせてやろう。皆、少し外せ」
 陛下の言葉に、近習や警護兵は一様に頭を下げると続々と部屋を出ていった。


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