第三章

 部屋の中に陛下と二人のみとなると、陛下は直ぐに切り出した。
 「この剣は、かつて朕が公衡に与えた物だ。其方は公衡の配下か?」
公衡と云うのは、将軍の字(あざな)である。
 「はい、左様でございます。私は黄将軍閣下の命を受けて、この場に参上致しました。」
私は跪いて答えた。
 「そうか。…では、公衡は朕が敗れた事を知 っておるのだな?」
 私はまたも直ぐさま答える。
 「黄将軍は、陛下が敗れたとの報に接し、即座に事実の確認に乗り出されると共に、私を此処に遣わされたのでございます」
 すると、陛下は溜息を噴きつつ、僅かながら安堵の表情を浮かべた。
 「ならば善い。江北に布陣させたままで状況も分からぬままに敵に討たれる公衡ではないが、万に一つそうなっていたなら朕はいよいよ会わせる顔が無いと危惧しておったのだ」
暫くの沈黙の後、陛下は更に問い掛けてきた。
 「其方の役目は何だ?」
 「私は、黄将軍より竹簡を陛下にお届けせよと、仰せつかりまかり越したのでございます。そしてその竹簡は、陛下以外の誰にも存在を知られてはならないと、厳しく申しつけられました」
 「そうであったか。それで、その竹簡は何処にあるのだ」
陛下の当然の問いに、私は口籠った。
 「…どうした?何か不都合でもあるのか?」
 「いえ!そうではありません」
声が不必要に大きくなってしまった。
 「実は……、失礼致します!」
私は意を決して、その場で着衣を脱ぎ出した。 実は、誰にも知られずに竹簡を陛下にお渡しする手段に窮した私は、竹簡を自分の腰に巻 き付けて隠し持っていたのだ。


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