そんなある日、私は将軍に勉強の成果を見て頂こうと思い立ち、書斎に居られた将軍に話し掛けた。
 「将軍、私は魏国に来て以来、将軍に師事致して学んで参りました。そして、私なりに九年前の戦いの時の事を推理致しました」
 将軍が読みかけの書を閉じて、耳を傾けて下さったのを見て取った私は続けた。
 「私は、九年前に将軍が魏を訪れられた事は戦いが始まる前からの選択肢であったのではないかと思います。理由は、ホウ林殿の従軍とあの時の竹簡が、既に用意されていたと云う事実です」
そこまで話すと、私は少し息をついて将軍の様子を窺った。
 ホウ林殿と云うのは、その時の将軍の率いる軍に従軍されていた人物で、魏に降った際に、先に魏に住んでいた妻子との再会が美談をして広まった方である。
 将軍は身じろぎ一つせずに、私を見据えている。
 「それで終わりか?」
 「いえ、これからでございます」
将軍の反応に何だか嬉しくなった私は、続きを述べた。
 「軍の配置を伴うものでございますゆえ、 私は将軍が魏を訪れられたのは、陛下御自身の策なのではないかと考えます。あの竹間には、その策に対しての将軍の補完が加えられたのではないかと推察致します。そして缺は 『決意』或いは『訣別』に通じさせたものだと思いました」
 将軍は落ち着いた声で応じる。
 「では、儂が乗ったその策とは?」
 私は一瞬だけ躊躇ったが、直ぐに続けた。
 「陛下は将軍に、蜀の未来を委ねられたのではないでしょうか?もし、陛下のお世継ぎを差し置いて実権を握るような者があれば、 将軍が魏軍を率いて蜀に侵攻すると云うような策ではないでしょうか?」
 将軍は動揺した風でこそなかったが、上を向いて大きく溜息をついた。


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