「馬鹿言うなよ。飛ぶよ…絶対飛ぶよ…あんな奴らに馬鹿にされてたまるかよ…」
体を小刻みに震わせながら、少年は剣を背負った青年に向かって、返答をした。無論相手の顔は見ていない。青年はその姿を横目で見て答えた。
「戒さん、漢には勇気を出して守らなければいけない自尊心というものがあります。知っていますか?」
突拍子も泣く青年は少年に問いかけた。
都洛陽の南側に少年の父が営む宿屋がある。繁栄した都にあるいくつかの宿屋の中で特に際立ったところがあるわけでもないが、彼の父は王里、人柄の良さで安定した経営を続けている人物で、妻と長女・長男を食べさせていくには十分な収入が確保できていた。少年の名前は戒。青年は彼の宿屋に居候させてもらっている宿無しの風来坊であった。
「自尊心?」
戒はようやく顔を上げ、隣でやさしい微笑を見せる青年に目を向けた。