上の二人も下の少年達も一斉にその声の主の方を見た。向こうから凄い剣幕で走り寄ってくる若い女性の姿が皆の目に映った。女性は走りやすいようにか、長い着物の裾を膝上までたくし上げ、男勝りの走り方でこちらに向かってきている。

 「やべぇ。鬼蘭だ!逃げるぞ」

 誰からともなく発されたその言葉を合図に下の少年達は一斉に女性の来た方角に走り去って行った。無論女性とは少し離れた位置ではあるが…。

 「戒も趙さんも早く降りてきなさい!」

 あっという間に先程まで少年たちが怒声を上げていた場所まで来ると、彼女は仁王立ちし、前にも増して青ざめている屋根上の二人に向かってそう叫んだ。声量は間違いなくさっきまでの怒声より上で、明らかに迫力があった。

 「ま・まずいですね…自尊心云々ではなく…命の危険もあるかと…」

 青年はそう呟くと戒の方を向き、反応を促した。しかし戒は先程とは打って変わって何やら覚悟を決めた威勢の良い顔つきをしていた。刹那─戒は助走と共に大空を舞った。


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