「もうここに来て一月…かな?どこかに仕官するとか、職のあてはないの?その剣は使えないだろうけど、闘うことくらいはできるんでしょ?」
例の背中の錆びた剣は、今は彼の背後に降ろしてある。彼は趙、名は神だと言う。自分の出自について多くを語ろうとはしなかったが、何か意図があるのだろうと、王家の人も特に聞き出そうともしなかった。趙神が悪い人間にも思えなかったので、倒れそうなくらい憔悴しきって施しを願ってきた彼を受け入れたのだ。遡ること一月前、応対したのは誰であろうあの長女の蘭であった。以後、趙神は王家の自称用心棒として住み着いている。もちろん用心棒としての活躍を一家が望んでいるとも思えないが、趙神がこの家の役に立っていると言えば、いつも近所の子供達にいじめられていた長男の遊び相手として家に居座っている、というくらいの感覚で住まわせていた。
「私はあまり闘う事を好みません。出来ることなら謝って許してもらう方が好きですね。この剣はある人の形見ですから…何の役にも立ちませんし…ただ…」