「何かを捜して旅をしてるんでしょ?」

 その事については趙神自信が説明をしていた。それが何なのか?物なのか人なのかさえ語らないが、とにかく旅の理由はそれだという事は聞いていた。

 「戒!趙さん!早く下に降りてきて!」

 その声は蘭のものだった。明らかにこれまでの彼女の声とは違い、切羽詰った、何か重大な事を早急に告げるべき声であるというのは容易に想像できた。驚いて二人は顔を見合わせたが、戒は飛び上がると一目散に下に降りていった。趙神は背後の剣に手を伸ばすと、慎重にまた背中の定位置に戻し、落ち着いて部屋を出て行った。

 二人が下に降りると、慌てて引越しのような荷造りの準備をする王里自身と妻、何人かの雇い人の姿が目に映った。何か重大な事がこれから起こりそうだ。そんな不安は戒の中で確信に変わりつつあった。心配そうに戒を見つめる蘭の説明の言葉を二人は待った。


<<前項  表紙  >>次項