「お前は阿呆か?どうやらこの都の炎で頭の臓を焼かれたらしい。あの錆びた剣で将軍に…」

 その言葉が言い終わらない内に、彼の頭は胴体から切り離され、彼らの足元に転がった。その頭の、もう何の意味も持たない彼の顔は、死ぬ間際まで自分が死ぬとは思っていなかったらしく、笑顔のままだった。体はまるで糸が切れた傀儡の様に膝から崩れ落ち、激しい血しぶきは近くにいた少女の顔に正面から大量に降り注いだ。少女はさらに奇声をあげ、地面に座り込んでしまった。何が起こったのか分からなかった他の兵士達はその悲鳴をきっかけに各々武器を手に身構え始めた。

 彼らは一様に馬鹿にした態度から、この世の者とは思えない人物を眺める様に恐れていた。それは先程の一手が、誰にも確認できないほど早かったからだ。趙神と死んだ兵の間には三尺ほどの間があった。そこに斬りかかる為には気合を入れて走り込み、武器を掲げて振り下ろす時が必要で、それだけの時が在れば、洗練された仲間が身構える時間がなかったとは思えなかった。まして目の前にいる彼らの誰一人趙神の動きが見えなかったのだから、不安に駆られるのも頷けよう。しかし、現に趙神は先程立っていた位置とは違う場所にいた。将軍を見つめる顔には何の変化もなく、怪しい笑みを崩してはいなかったが、それが余計に彼らの恐怖心を煽っていた。


<<前項  表紙  >>次項