「雑魚はいらん。お前だ。得物を取れ」

 将軍は先程の一撃から、既に腰を上げていた。手に持っていた酒樽は足元に落ち、中の酒はどくどくと流れ出していたが、本人はその事にも全く気がついていなかった。我に帰った男は斜め後ろに立て掛けてあった、他の兵士の物より少し豪華な模様で彩られた剣を手にした。その将軍が指名した艶やかな少女はようやく事態を飲み込み、趙神の背後に隠れた。得体の知れない目の前の若者の正体を探るべく、将軍と呼ばれた男は恐怖を隠すように語りかけた。

 「な・何だ?お前は何者だ!わしは董太師直属の将、呉匡だ!お前などが剣をふるう相手ではないぞ」

 そう言うと剣を手に身構えた。趙神はというとその問い掛けに何の関心も示さず、今度は自分の手に持った錆び付いた剣を眺めていた。と、怪しい笑顔を解き、剣を再び背に直すと

 「すまぬ。俺の勘違いだった様だ。邪魔をしたな」

 そう言って彼に背を向け帰ろうとした。その際、背後にいた助けを求める少女を全く気にする様子などなく、手で押しのけて歩き始めた。


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