「出発の前に…約束してもらいたいことがあるの…」
先程までの勢いとは打って変わって、語尾は聞き取れない程の小声になっていた。昨夜の傷が簡単に癒えるはずもなく、蘭の体には顔から足まで至る所に布やら綿やらが黴菌を遮断するために巻かれていた。それでも気丈に振る舞い、精一杯の明るさを保とうとしていた姿は趙神には痛々しくも映っていた。
「戒は絶対に剣術を学ぼうなんて思わないで!もう血を見るのは沢山。誰にも傷ついて欲しくないし、誰かによって自分が傷つくのも嫌だから。いい?」
どうやら先程の会話は蘭の耳に聞こえていたらしい。戒にとって、痛いところを突かれた感のあるこの問いは今度は確実に返答を求めていた。
「分かったよ。約束するよ…」
渋々答えた戒から目を上げると、欄は趙神へと向き直り、しっかり目を見つめ、話し始めた。