「軍吏殿はいかがでしょう。」

いきなり名指しを受けた桓楷が
自分が?と目を丸くした。

「確かに私は劉荊州が
荊州牧に就く前から存じておりますが・・・」

劉表が野心の無いお人よしだということを桓楷は知っていたが、その下にいる劉表の優秀な臣の方が怖かった。
帰って来れるのは自分の首だけ・・・というのも十二分にありえるから、背筋がゾゾッとする。

「そうか!劉表と面識があるのか!
それなら交渉もやりやすい!
行ってくれるか?」

押し寄せる波のように、
幕舎内の全員の視線が桓楷へ向いた。

この状況でどうやって首を横に振ればいいんだ。

こくりと、何かに堪えられなくなったかの様に桓楷は下を向いた。


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