第四章


もうすぐ夜がやって来る。

昼間の青と夕日の赤が織り交じる紫の空に、兵らが焚く炊煙が立ち上ってゆく。

緊迫する戦場の中で唯一心安らぐひととき。

孫策はぶらぶらと陣営内を視察しながら、
ささやかな歓談を催している兵達にややばかり余力が残っているのが見て取れて、心底ホッとしていた。

父が築いてきた軍は、簡単にへこたれやしない。

そう感じて安心するのと共に、今度は自分がそれを率いることになるのだと思うと重圧にならない筈はなかった。

「若様!」

振り返ると、大きな身体を揺らして黄蓋がやって来た。
「我々も夕食をとりましょう!ささっ、中に!」

バサリと乳臭い牛の皮で出来た天幕をくぐり、
瓶に厚布を張った椅子に腰掛ける。

「そこらの鳥を絞めてきました。
…ほほっ、いい具合に焼けとる!」


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