第五章
ギィィッと音を立てて開く謁見の間の扉。
「どうぞ。殿下がお待ちかねです。」
と促されるも、桓楷は内心ビビる心を取り押さえるのに必死だった。
それでも使いとしての役目を果たさなければならない。
伝令役を控えに待機させて、桓楷は勇み足をかける。
脇に整列する劉表の将兵らの目が、桓楷の後頭部から背中にかけて集中した。
まずはお決まりの文句を吐く。
「これはこれは劉荊州殿下!益々のご健勝のことと存じます!
貴殿が荊州の牧に就いてからこの不肖、長らく顔を見せなかったことをどうかお許し下さい。」
うやうやしく拱手をとるも、カイ良の厳しい視線が桓楷の額に突き刺さる。
「先日は江東の虎孫堅を討つことのお見事でしたな!
渤海の名族袁家へ使者を送るのと同時に俔山の地の利を活かした兵の伏し方!
一石二鳥とはまさにこのことですな!いや全く恐れ入ります!
どなたがお考えになった策で…?」
「我輩だ。」
桓楷の軽口へ重くのしかかるようにカイ良の声が響いた。