第七章


孫堅の遺体を乗せて、
船は漢水を下る。

船の舳先は青みがかった漆黒の波を切り開いて進み、その後を優しい黄金色の月影が追う。

喉の渇きがひどくて眠れなかった孫策は、ミシミシと甲板を軋ませて船首の方へ赴く。

船酔いなんかしたことなかった。
身体中で波の揺れを感じる。
ゆらゆら、ふわふわ、
自分の足がしっかり甲板を踏んでいる気がしなかった。
千鳥模様に連なる波をぼんやり眺めて、
孫策は昼間のことを思い出す。

あれが本当に、父上の最後の姿なのか?

今でも信じることは出来ない。

抜き取られた臓物と目玉。

思い起こして、とたんに苦みが胸に込み上げてくる。

「ぐっ…!」
慌てて口元に手をやり、
必死で喉に力を入れて吐き気を畳み掛けた。

こんなことで沈んでたら、俺は虎になんか成れないんだ!

塞ぐ手の指に力がこもる。そこにポロポロと雫が乗った。


<<前項  表紙  >>次項